新型コロナウイルスの感染拡大で、経済活動が急速に縮小するなか、株価は持ち直しの様相を強めています。日経平均株価は、5月15日の終値が2万0037円47銭と2万円台を回復。3月19日に記録した安値(1万6358円)から22.5%も上昇しています。
もちろん株価は、新型コロナウイルスの感染拡大が問題視される前に比べれば、低い水準です。今年(2020年)の日経平均株価の高値は、1月20日に記録した2万4083円ですので、2万円近辺の株価は、高値より17%ほど低いです。しかし、経済成長率が大幅なマイナスとなることが確実視されるなか、株価が高値から2割弱しか下がっていないことは注目に値します。
3月下旬から始まった外出自粛や店舗休業は、経済活動を劇的に低下させました。都市部を中心に、大多数が外出せず屋内に滞在し続けました。企業に勤めている方も多くは、オフィスに行かず、自宅で仕事をするようになりました。都心ですら、歩いている人が数人という異常事態です。
今後、緊急事態宣言が解除されたとしても、感染を恐れる方を中心に、外出を控える動きが続くと予想されています。
そこで政府は、事業規模117兆円の緊急経済対策を成立させました。報道によると、政府は2次補正予算を編成し、経済対策の規模をさらに数十兆円も増やす方針です。
しかし、政府による経済対策の規模は、前例のない規模とはいえ、落ち込んだ経済活動を以前の水準に戻し切れる水準ではありません。すでに失った経済が大きいからです。
たとえば、飲食店やアパレルでは、人々の行動が大きく変わったことで、これを機に店舗の閉鎖・廃業に踏み切ったところも出てきています。これにより店舗で働いていた方々は職を失うため、生活を守るために節約姿勢を強めます。この結果、小売店の売り上げも落ち、それが小売店で働く人の賃金を減らします。そして、人々は節約姿勢をさらに強めます。いわゆる悪循環です。
経済活動が大きく縮小することで、企業が生み出す利益も大きく減ることが予想されます。株価は、企業利益に基づいて決まるとされていますので、本来であれば株価も大きく下げるはずです。しかし、上述したように実際の株価は、そこまで大きく下げていません。むしろ持ち直しています。
経済と株価の乖離は、一見、不思議なことに思えるかもしれません。ただ注意が必要なのは、株価が企業利益に基づいて決まる、という考え方は、過去の事例研究から導かれたものでしかないということです。いま我々が直面している異常事態は、事例研究で使われた過去と全く異質であることを忘れてはなりません。
いまが異常事態であるから、いまの株価が、過去の株価と同じロジックで動くとは限らない、という考え方は、否定し難い気もします。
今後、株価は、企業利益の減少とともに下落基調が強まるかもしれません。それは、景気にとって悪いことのように思えますが、過去の動き(世界)に戻ったという意味では歓迎すべきことかもしれません。
一方、経済活動の低下にかかわらず、株価が下がらない、もしくは上昇を続ける場合、株式市場は過去から決別し、新しいロジックで株価が決まるものに変化したとみるべきでしょう。人々は株式を直接的もしくは間接的に保有していますので、株式市場の変化は、私たちの暮らしの変化にもつながっていくと思われます。