7月下旬から、米ドル(以下、単にドルとします)安の動きが目立ちます。ドルと円の交換比率を示すドル円は、新型コロナウイルスの感染拡大懸念で101.2円程度までドル安・円高が進みましたが、その後はドルを買い戻す動きが続き、3月24日には111.7円程度まで上昇。その後、ドル円は106円台半ば程度まで下げましたが、4月から7月半ばまで、おおむね106~108円のレンジ(範囲)での推移が続きました。
しかし7月24日は106円を割り込む下落。その後もドル円は下落基調が続き、7月31日には104.3円台と3月12日以来のドル安(円高)水準に下げています。
ドル安の動きは、日本円だけでなくゴールド(金)やビットコインにも表れています。ゴールドの国際指標であるニューヨーク金先物(12月限)は、7月31日に一時1トロイオンス2005ドルと、史上初めて2000ドルの大台を突破し、過去最高値を更新しました。
代表的な暗号資産(旧称・仮想通貨)であるビットコインは、株価などが大きく下落した3月12日に一時5000ドルを割り込みましたが、5月上旬には1万ドルを回復。その後はドル円と同じように横ばい圏での推移を続けましたが、7月24日から大きく上昇し、7月31日には1万1100ドル台と、昨年(2019年)8月半ば以来の高水準に達しました。
日本円、ゴールド、ビットコインが3つともドルに対して上昇しているのは、ドルを日本円やゴールド、ビットコインに換える動きが強まっているためです。特にゴールドもビットコインは、日本円のような通貨と違い金利収入を生み出さないものです。それでも価格がドルに対して上昇しているのは、それだけドルを手放そうとする動きが強いと解釈することができます。
ドル安が進んでいる背景の一つは米国景気の悪化です。4-6月期の米GDPは年率換算で前期比32.9%減と、リーマン・ショック直後の2008年10-12月期(同8.4%減)を大幅に上回り、比較可能な1947年以降で最悪の落ち込みとなりました。
以前ですと、4-6月期が最悪期で、7月以降は景気が持ち直す、という期待がありました。いわゆるV字回復期待です。しかし、7月になっても新型コロナウイルスの感染拡大は止まらず、5月上旬から減少傾向にあった失業保険申請数(失業者が失業保険を申請する件数)は7月半ばから2週連続で増加に転じています。
一方で、これまで失業者を救ってきた政府の援助も縮小される可能性が高まっています。米議会は、7月末で期限が切れる失業給付の特例加算を延長する方針ですが、どれくらい加算するかの規模で与野党が対立しており、延長法案が成立しないまま期限が切れて、一時的に特例がゼロになるリスクが強まっています。
これまで失業保険の加算額は週600ドル(1ドル100円とすれば6万円)と大きかったのですが、これがなくなると、失業者の収入が大きく落ち込み、家賃の支払いなどが難しくなるとの見方が強まっています。与党である共和党は、加算額を週200ドルに減らすよう主張していますので、仮に失業給付の特例加算が延長されたとしても、失業給付金が減ってしまう恐れもあります。
新型コロナウイルスの感染拡大は、6月くらいには終息に向かうだろうから、終息するまでは政府が大規模な給付をすることで国民の生活を守ろう、というのが米国政府や議会の考え方でした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は、(期待に反し)終息に向かいませんし、いつ終息するのかも、8月になろうとしている今ですら誰も言い切れない状況です。 このまま、また次の冬を迎えれば、新型コロナウイルスの感染はさらに広がる、という見方ももっともらしく聞こえます。
新型コロナウイルスの感染拡大を終息させるための方策としてワクチンの開発を期待する声が強まっています。しかしワクチンの開発が成功するのは、明日など短期的な話ではなく、早くても年内で、来年になっても開発できないとの悲観的な見方もあります。
リーマン・ショックの時もそうでしたが、経済に負の大きなショックが生ずると、当初は資金繰りのためにドルが買われるものの、その後は、米国景気(ひいては世界景気)の悪化が嫌気され、ドルが売られることが多々あります。いま私たちの目の前で起きていることも、過去のドル売りの流れと同じことのように思えます。