経済

新型コロナが一服した今、労働者が意識すべきこと

 日本の景気は、当面、安定的に推移するようです。

 9月30日に発表された8月の鉱工業生産は前月比1.7%上昇と、3カ月連続のプラスとなりました。同時に発表された生産予測指数によると、9月は前月比5.7%、10月は同2.9%それぞれ上昇するとみられ、予測指数通りとなれば10月の鉱工業生産は新型コロナウイルスの感染拡大が問題視される前の今年3月の水準を回復することになります。鉱工業生産を公表する経済産業省は、こうした結果を受けて、鉱工業生産の基調判断を「総じてみれば持ち直しの動きがみられる」から「生産は持ち直している」に上方修正しています。

 10月1日に発表された日銀短観では、大企業製造業の景況感を示す業況判断DIがマイナス27と、6月の前回調査から7ポイント上昇しました。同DIが改善するのは、2017年12月以来2年9カ月ぶりです。大企業非製造業のDIはマイナス12と、こちらも5ポイント改善しており、景況感の悪化に歯止めがかかった形となっています。

 鉱工業生産と日銀短観の業況判断DIは、いずれも景気との連動性が強い指標として知られます。その両指標が改善を示したことは、日本景気の改善基調が強まっていることを意味します。

 新型コロナウイルスの感染者数は、ここ数カ月、横ばい圏での推移が続いており、感染者数の増加ペースは一服しているとの見方が共有されています。このためか、新型コロナの感染に怯え、外出を手控える機運も後退しているように感じます。9月8日に発表された8月の景気ウォッチャー調査では、景気の現状判断DIは43.9と4カ月連続で改善しています。同DIの内訳をみると、消費者マインドとの連動が強いとされる家計動向関連DIは45.3と、昨年9月以来の高水準に上昇しています。

 一方で、日本景気の現状や先行きを懸念する声は、依然として聞こえてきます。9月28日に発表された東京商工リサーチによる調査(「新型コロナウイルス」関連破たん状況)によると、9月の倒産件数は85件(28日14時時点まで)と、8月(67件)から増加しています。政府や自治体による各種支援策で経営を続けてきた企業が、とうとう息切れしたとの見方はもっともらしく聞こえます。

 雇用が年明けから悪化するとの見方も消えていません。7月の完全失業率は2.9%と
低い水準のままですが、これは雇用調整助成金(企業が従業員を解雇せずに休業扱いにすると政府から支給される補助金)の拡充によるところが大きいとみられます。この雇用調整助成金は、特例措置が取られており、従業員1人当たりの助成金が1日最大1万5000円に引き上げられています。このおかげもあって、企業は従業員を解雇せず、休業者として雇用し続けています。

 しかし、この特例措置は今年12月末までの予定です。特例措置がなくなれば、中小企業を中心に休業扱いされた労働者(休業者)が解雇され、大量の失業者が発生するとの見方を示す有識者もいます。

 ただ、失業者が増えそうだ、という見方は、日銀短観からは肯定されないように思えます。日銀短観の雇用人員判断DIは、9月調査時点で-6、12月時点の予想では-10となっています(いずれも全規模・全産業)。同DIは、プラスになればなるほど雇用が過剰(人手が余っている)ことを意味し、逆にマイナスになると雇用は不足(人手が足りない)ことを意味します。そのDIが9月時点でもマイナスで、12月にはマイナス幅がさらに広がる、ということは、企業側は人手が足りないと判断しているし、今後もその判断は続くとみていることを意味します。

 もちろん人手の過不足感は、業種によって異なります。同DIを製造業と非製造業に分けると、製造業は依然としてプラス(+10)ですが、非製造業はマイナス(-17)です。ただ、企業規模による傾向の違いはなく、大企業であっても中小企業であっても製造業では人手が余り、非製造業では人手が不足しています。

 こうした状況を考えると、仮に雇用調整助成金の特例措置が予定通り12月末で終了となり、製造業の企業が従業員を解雇したとしても、非製造業では人手不足に変わりはないことから、解雇された方は非製造業で雇用されることで失業を回避するチャンスがあると予想されます。このため、現在の休業者全員が失業者になることはなく、失業者が街にあふれるようなことは避けられそうだといえます。

 これから冬に近づき、新型コロナウイルスの感染者数が再び増えるとの見方もあります。ただ、景気が回復基調を強める中、失業者が大量に発生するほど雇用環境が悪化することも避けられそうだとみられるのであれば、日本景気がこれから一気に悪化することはないとみるのが自然のように思えます。

 また、労働者の視点から考えると、意識すべきことは、景気が(これから)悪くなると考え、委縮した姿勢をとることではないように思えます。むしろ、製造業から非製造業へのシフトという大きな流れの中で自らがどのような形・方法で経済的な付加価値を生み出し続けていくべきかを考え、そのために必要な行動をとる準備を整えることのようにも思えます。

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