オフィス賃料が下がり始めてきました。オフィス仲介の三鬼商事が発表した9月の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス平均賃料は、1坪(3.3平方メートル)あたり前月から0.39%(89円)下落し、2万2733円となりました。下落は2カ月連続で、新築ビル、既存ビルともに下落となっています。
オフィス平均賃料と同時に発表されたオフィス空室率は、前月から0.36ポイント上昇し、3.43%となりました。上昇は7カ月連続で、2017年3月(3.60%)以来の高さとなっています。地区別にみると、渋谷区の空室率の上昇が目立ちます。9月の渋谷区の空室率は、4.48%と14年2月(5.37%)以来の水準に達しています。一方で、千代田区は2.38%に過ぎません。
オフィスの賃料や空室率の先行きについての見方は、二つに分かれています。このままオフィスの空室率は上がり続け、結果として賃料も下落傾向が続くとする見方と、オフィス空室率の上昇や賃料の下落には、早ければ年内には歯止めがかかるという見方です。
見方が分かれる背景には、大企業のオフィスに対する考え方も分かれていることがあります。日立製作所や富士通は、多様な働き方の選択肢としてテレワークを積極的に推進しており、現在使用しているオフィスの床面積を減らそうとしています。一方、伊藤忠商事は、コミュニケーション不足の懸念から社員の出社を促しているようで、8月末まで原則テレワークでしたが、9月からは社員の安全に配慮しつつ出社比率を高めていると報じられています。
海外でもオフィスに対する考え方が分かれています。米金融最大手JPモルガン・チェースは、9月下旬から営業幹部やトレーディングの社員らにオフィスへの復帰を要請しています。
一方、ツイッターは、全世界の社員5100人を対象に無期限でテレワーク勤務を認めています。
おそらく大企業のオフィスに対する考え方は、短期間で収れんすることなく、長い時間をかけた試行錯誤が続くと予想されます。試行錯誤が続くのであれば、一気にオフィスを減らすことは、リスク管理の点からみて好ましくなく、使わないかもしれないけどオフィスを確保する動きも続くように思われます。
一方、ベンチャー企業や中小企業といった経営資源が比較的乏しい企業は、大企業のように余裕がありませんので、オフィスを手放す動きが続くように思えます。経営資源に乏しい企業が利用するオフィスは、大企業と違い小規模な物件が大半でしょうから、小規模物件の空室率は、これからも上昇し、結果として賃料も下落すると予想されます。
じつは、この予想を裏付ける結果がすでに現れています。さきほどオフィス空室率は、渋谷が千代田区よりも高いことを紹介しました。ご存じのように、ベンチャー企業のオフィスは渋谷区に多く、大企業のオフィスは千代田区に多くあります。
オフィス賃料の下落幅は、千代田区といった大企業が多く存在する地域では、さほど大きくなく、渋谷区といったベンチャー企業や中小企業が多く存在する地域で大きくなると考えることもできそうです。