緊急事態宣言が、東京を含む日本全域で解除されました。これにより人々は、緊急事態宣言が発令される前の生活様式(ライフスタイル)に戻しやすくなりました。そもそも、緊急事態宣言に伴う外出自粛などの行動制限には法的根拠がなく、緊急事態宣言下でも行動を抑制する法的必要性はありませんでした。このたび、緊急事態宣言は解除されたわけですから、人々が生活様式を元に戻しても不思議ではありません。
ただ、人々の動きは、緊急事態宣言前の水準に戻っていません。公共交通機関では、朝晩の通勤時間帯であっても、車内は以前ほど激しく混雑していません。東京に先んじて5月14日に緊急事態宣言が解除された地域における5月23日(宣言解除から9日後)の人出は、緊急事態宣言前の水準の8割弱にとどまりました。
緊急事態宣言が解除されたからといって、新型コロナウイルスが消えてなくなったわけではありません。人と人との交流が活発になればなるほど、人を介したウイルス感染の可能性は高まります。新型コロナウイルスの感染を恐れる方は、今後も人との物理的な接触(いわゆる濃厚接触)を避ける生活を続けるでしょう。
日本にありがちといわれる世間への配慮も、人出を抑える結果につながると思われます。厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症専門家会議からの提言を踏まえ、新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」を日常生活に取り入れるよう要請しています。この新しい生活様式では、働き方の実践例として、テレワークやローテーション勤務、時差通勤、オンライン会議(WEB会議)に加え、名刺交換ですらオンラインでの交換を提唱しています。行政がこのような要請をしていることから、たとえ新型コロナウイルスの感染を過度に恐れていない方でも、人との対面での交流や外出を自粛するでしょう。また一部企業も、従業員に対し、新しい生活様式に合致した働き方を推奨すると予想されます。
緊急事態宣言の解除を機に、行動を元に戻す方もいれば、引き続き行動を抑制する方(新しい行動を選択する方)もいることになります。全体でみると、行動を抑制する方が一定数存在することから、人出の数など行動力は宣言前に比べて落ちることになります。
人々は、新型コロナウイルスを機に、行動だけでなく考え方も変えたように思えます。たとえば、新型コロナウイルスの感染に関する考え方は様々でしょう。自分は感染しない、と考える方もいるでしょうし、自分は感染するかもしれない、と考える方もいるでしょう。また、自分が他者をウイルスに感染させてしまう、と考える方もいれば、自分は他社にウイルスを感染させることはない、と考える方もいるでしょう。新型コロナウイルスに関する考え方の違いが、行動の違いとなって表れている、と言えるかもしれません。
人々の考え方は行動が変わった以上、人々に対して何らかの価値を提供する事業も変わらざるを得ません。たとえば飲食店の場合、営業は再開されるのでしょうが、いわゆるソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保するために、店内の座席数を減らす飲食店は増えると思われます。
飲食店が座席数を減らすことは、売り上げを自ら減らすことを意味します。売り上げが減っても事業を続けることができるようにするためには、様々な点でコストを減らす必要があります。このため、飲食店で働く人の数は減るでしょうし、家賃が高い場所での営業は控えるようになるでしょう。
一方で、新型コロナウイルスの感染リスクを重んじない方を対象に、座席数を元の水準のままで営業する飲食店も存在するでしょう。ただ、その場合でも、感染リスクを意識する顧客は一定数存在しますので、期待できる売上高は以前ほど大きくならないと予想されます。そのため、座席数を減らさない飲食店であっても、従業員などを減らすことでコストを抑える努力が必要となります。
また、新型コロナの感染リスクを低くしたいという新しいニーズに対応する新しい飲食店が現れる可能性もあります。これは飲食店に限った話ではありません。新型コロナウイルスを機に生まれた新しいニーズに対応した製品・サービスを提供する企業は成長が期待されます。WEB会議ツールであるZoomが、一気に知名度を上げ、ユーザー数が急増したのは、新しいニーズに対応した一例といえます。
新型コロナウイルスという未知の脅威が生じ、多くの人々が苦難に直面しています。もちろん苦難は短期間で解消されるものではなく、しばらくはつらい状況が続くことでしょう。ただ、新しいニーズに対応できる人・企業が多く生まれることで、経済の未来図が明るく変わる可能性もあります。