経済

2021年はドル安・円高へ、円高での日本株暴落の可能性を考える

 本日(12月17日)の早朝、米連邦準備理事会(FRB)は、米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明を公表しました。数多くの報道にあるように、FOMCは、事実上のゼロ金利政策を維持し、米国債などの購入(いわゆる量的緩和策)を、完全雇用と物価安定に近づくまで継続する意向を表明しました。
https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20201216a.htm

 これまでFOMCは、量的緩和策の期間を「今後数カ月」としていましたが、今回は「完全雇用と物価安定(インフレ2%)に近づくまで」と明確に表明したことで、現在の量的緩和が続くことになります。

 では、完全雇用と物価安定は、いつ頃、近づくのでしょうか。FOMCが同時に公表した景気見通しに彼らの見方が示されています。

 FOMCが公表した景気見通しでは、GDP成長率、失業率、インフレ(PCEデフレータ)の見通しが示されています。
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/fomcprojtabl20201216.pdf

GDP成長率:-2.4%、4.2%、3.2%、2.4%、1.8%
失業率:6.7%、5.0%、4.2%、3.7%、4.1%
インフレ:1.2%、1.8%、1.9%、2.0%、2.0%
(注)値は回答者の中央値、左から2020年、2021年、2022年、2023年、長期

 一般に、FOMCで考える完全雇用(失業率の水準)は、景気見通しで示される長期の失業率であり、物価安定は景気見通しで示される長期のインフレ(PCEデフレータ)とされています。今回の見通しでは、長期の失業率が4.1%、インフレが2.0%ですから、それぞれの値に近い年が、完全雇用と物価安定に近づいた状態のタイミングとなります。

 今回の場合、そのタイミングは2022年(失業率4.2%、インフレ1.9%)です。

 整理すると、これまで「今後数カ月」とされていたものが、「2022年のどこか」となったわけで、少なくとも来年いっぱいは現在の量的緩和が中止(もしくは縮小)されることはなさそうだ、と考えることができます。

 為替市場では、FOMC生命の公表後、ドル円が103円台半ば近辺から104円ちょうど手前まで上がりました。しかしドル円の上昇は続かず、買い一巡後は一転して下落基調で推移。日本時間17日の朝は103円台前半と、FOMC声明公表直前の水準を下回ったままでした。

 為替市場の反応から、FOMCはややタカ派よりにシフトした、といった見方がSNSなどで伝わったようです。パウエルFRB議長が今回のFOMC前に「必要になれば追加緩和に踏み切る」と発言したのに、表面的には追加緩和はなかったことが「FOMCはややタカ派にシフトした」という見方につながったのかもしれません。

 しかし上述したように、量的緩和の期間は(回りくどい表現方法で)長期化されたわけですから、今回のFOMCは、ややタカ派よりにシフトした、のではなく、むしろ、引き続きハト派姿勢を示した、と解釈したほうが合理的に思えます。為替市場が(結局)ドル売り基調に戻ったのも、そうした見方と整合的です。

 米国株と米長期金利が上昇基調を続けていることもあり、ドルは(特に対円で)買い優勢となるのではないか、という期待が根強くあります。特に日米金利差が拡大すると考えている方ほど、ドル円が下に向かうという考えは受け入れがたいかもしれません。

 ただ、米国では政権が交代し、来年(2021年)は、新政権に対し、コロナ対応だけでなく景気対応を望む声が強まりやすいタイミングです。バイデン政権としても権力維持のためにも、景気への対応をないがしろにするわけにはいきません。

 とはいえ、財政・金融政策は、歴史的な規模で景気配慮型となってしまい、さらなる景気刺激を財政・金融政策から求めるのは難しいのも事実です。

 このときにバイデン政権に残された数少ない景気刺激策は、ドル安政策、なのかもしれません。ドル安を通じて米株買いを刺激するとともに、米国企業の輸出を支援するのは、(為替市場が変動相場制移行してからの)米国政府にとっては、「使い古された・よくある」景気対策のように思えます。ハト派として知られるイエレン前FRB議長が財務長官に就任したことも、こうした見方をもっともらしく見せます。

 仮に米国政府がドル安志向を強めた場合、日本株はどうなるでしょうか。米国株がドル安を受けて高水準を維持できるのであれば、たとえドル安(円高)になったとしても、日本株を売る勢いが強まるわけではないかもしれません。

 むしろドル安により、ドル建てでみた日本株のパフォーマンスは(円建てに比べ)より改善する展開も期待されます。ドル安傾向が続くと市場が見た場合、2021年も日本株は外国人買いの強まりを受けて堅調に推移する可能性もありうるかもしれません。多くの方が目にしたことがない、ドル安(円高)&日本株高、の展開です。ただ、この組み合わせは、じつは1980年代後半のいわゆる平成バブル期にみられた現象でもあります。


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