緊急事態宣言が解除され、休業を余儀なくされた飲食店の多くが通常営業となるなど、少しずつですが経済活動が回復を続けています。大方の予想に反し、株価は底堅く推移しており、行列を作らなくてもマスクを手に入れることができるようになりました。人々の間で蔓延した悲観的なムードが後退したようにも感じます。
ただ、このまま経済が回復を続け、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の状況(いわゆるコロナ前)を我々が迎えることはないでしょう。東京を中心に新型コロナウイルスに感染する方は依然として存在しており、ウイルスを駆逐するワクチンも開発されていません。
仮に新型コロナウイルス感染症を治すワクチンが開発されたとしても、コロナ前に戻ることはないでしょう。ワクチンで感染症が治るとしても、後遺症が残る可能性があるほか、高齢者はワクチンが効く前に感染症で死亡することもあり得ます。この場合、たとえワクチンが開発されたとしても、新型コロナウイルスの感染防止を優先する方は一定数存在すると考えられ、コロナ前の経済活動を期待することが難しくなります。
すでに一部で指摘されているように、新型コロナウイルスが、インフルエンザと同じように変異する可能性もあります。せっかく開発されたワクチンが、変位したウイルスに対して効かない恐れもあり、我々は新しいワクチンが開発されるまで、経済活動を抑制・自粛する展開を迎えるかもしれません。
コロナ前の経済は、ウイルス感染のリスクはほぼゼロであり、仮に感染しても死に直結するわけではないため、リスクに備える必要はない、という考え方を前提としてきました。しかし、もはやコロナ前には戻れず、我々はウイルス感染リスクを意識した経済のもとで生きていくことになります。
この結果、人々が物理的に緊密に接近することを前提とした産業(ここでは接近産業といいます)は、消滅に向かわざるを得ません。接客を伴う飲食業は、その典型例ですし、狭い空間を共有する演奏会やライブ、多数の人々が集まるイベント、カラオケボックス、フィットネスクラブなどは、いづれなくなることが予想されます。
一方で、物理的な接触を伴わないインターネットを利用した産業(ネット産業)は、接近産業の代替として、普及・拡大しました。インターネットによる会議システムは、今まで通常に行われてきた会議の代替として一気に普及しました。音楽、映画、ゲームなどスマホやタブレットを通じたエンターテインメントサービスは、売り上げを大きく伸ばしました。
外出しなくても在宅で得られるサービスも、売り上げを伸ばしました。食料品の宅配サービスは、品切れになるほど注文が殺到しました。
このように産業構造が短期間で大きく変わってしまうと、動きについてこれない人々が多数発生するでしょう。今のところ雇用の悪化は、さほど問題視されていないようですが、産業構造の変化とともに、ついてこれない人々の数は増え、結果として失業者も増えると予想されます。
失業者が増えれば、当然、消費も落ち込み、景気回復の動きも止まることになります。また、消費が落ち込むことで、デフレ圧力も強まるでしょう。このような状況では、中小企業の多くは商売がしづらくなり、失業者がさらに増える、という悪循環に陥ります。
こうした暗い状況を避ける一つの方法は、政府が経済対策の名の下、財政支出を増やすことです。ただ、すでに一部からは、これまでの経済対策がバラマキであるとの批判が出ているほか、経済対策の財源を確保するために新たな税金を課すべきとの考えを示す方もいます。
つまり、今は後退している悲観的なムードは、そう遠くない将来に、再び蔓延するだろうと考えることもできます。その時に備えて、気持ちを引き締めるのも一つの方法ですし、その時が来るまで悲観的なムードは考えないようにするのも一つの方法かもしれません。