日本では、非正規社員が雇用の調整弁の役割を果たすことが明確となっています。
9月1日に発表された7月の「労働力調査」によると、役員を除く雇用者(雇われて働く人)は、昨年同月から78万人減りました。減少は4月から4カ月連続で続いています。
興味深いのは、雇用者全体の内訳です。役員を除く雇用者を正規従業員(いわゆる正社員)と非正規従業員に分けてみると、正規従業員は昨年同月から52万人「増え」、非正規従業員は131万人も減っています。
しつこいですが、もう一度。
正規従業員は昨年同月から52万人「増え」、非正規従業員は131万人も減っています。
すごいことです。新型コロナウイルスの感染拡大で景気が大きく悪化しているにもかかわらず、いわゆる正社員は、昨年から(減るどころか)増えていて、非正規従業員が、それ以上に減ったことで、役員を除く雇用者全体が減っている、ことになります。以前から指摘されていたことですが、正社員は企業から守られるものの、非正規社員は景気が悪くなると切り捨てられる、という図式が鮮明になっています。
こうした図式は、ここで指摘されなくても知られていることですから、正社員が守られるなら、正社員として働きたい、と考えるのは自然なことです。しかし正社員になる機会は減り続けています。
労働力調査と同じ日に発表された7月の「一般職業紹介状況」によると、正社員の有効求人倍率は0.81倍と、7カ月連続で低下し、2016年1月以来の低水準となっています。有効求人倍率は、有効求人数(いわゆる仕事の数)を有効求職者数(仕事をしたい人の数)で割った値です。その有効求人倍率が0.81倍ということは、正社員になりたくてもなれない人が生まれる状態にあることを意味します。
一方、パートタイムの有効求人倍率は1.19倍と、依然として1倍を上回っています。非正規社員の数は減っていますが、企業は非正規社員となる機会を(正社員に比べて)多く用意しているといえます。
2つの経済指標から言えることは以下の通りとなります。
1)正社員になる機会は減っている
2)非正規社員になる機会は(正社員に比べて)多い
3)しかし非正規社員は景気が悪くなると職がなくなる可能性が(正社員より)高い
こうした状況に直面した労働者の選択肢は、いくつか考えられます。職を失う可能性を低くするために、機会は減っているとはいえ正社員での就労を望み続ける方もいるでしょうし、とりあえず職を得ることを優先し、非正規社員として仕事を得ようとする方もいるでしょう。
ただ、正社員/非正規社員、という二元論は、どちらを選ぶとしても、労働者が受動的であることを前提とした考え方のようにも思えます。若年世代を中心に、最近では正社員/非正規社員という二元論を避ける考え方も普及しつつあり、「雇われない働き方」を選ぶ方も増えている印象です。
「雇われない働き方」は形式的には自営業主となりますが、現実には様々な形態があります。農業主、商店主、士業だけでなく、フリーランサー、自営業者、ギグワーカー、独立契約者(インディペンデント・コントラクター)、起業家といった言葉が一般的になっているのは、「雇われない働き方」が普及しつつある証左のようにも思えます。
フリーランサーやギグワーカーが増えている背景には、サービス産業化の進展、デジタル経済の拡大、労働者の多様化、労働規制の強化、社会保険料の企業負担の増加などがあります。こうした各種背景は、フリーランサー、ギグワーカーの増加を後押しする方向に展開すると予想されます。
フリーランサーやギグワーカーなど「雇われない働き方」が普及すればするほど、「雇われない働き方」をサポートするサービスも発展・拡大すると予想されます。レンタルオフィス、シェアオフィス、バーチャルオフィス、カプセルオフィス、サテライトオフィス、ワーキングスペースといったオフィスサービスは、今後も存在感が高まると考えます。
在宅勤務、という言葉がありますが、これは雇用者を想定した言葉のような響きを感じます。今後は、在宅勤務、ではなく、テレワーク、リモートワーク、WAA(Work from Anywhere/Anytime)という言葉が、より多く使われるような気もします。