経済

なぜ歴史的建造物が「ワーキングスペース」として活用されるのか

 埼玉県川越市は、市内の歴史的建造物をワーキングスペースなどビジネス用途に使うための実証実験を始めたと発表しました。実証実験は2021年2月末までの3カ月が予定されています。実証実験として使われる歴史的建造物は、明治時代に建てられた「綾部家」と「小島家住宅」の2棟です。

 報道によると、実証実験では国の地方創生臨時交付金を活用し、民間のNECキャピタルソリューションがワーキングスペースを運用するそうです。小島家には、テーブル、椅子、Wi-Fi、大型モニターなどが設置され、8日から運用が始まっています。また、綾部家にも、テーブル、椅子、Wi-Fi、大型モニターなど同様の設備を1月上旬までに整備する予定で、2月末までに2棟合わせて約20の事業者が使用する見通しです。

 川越市には、蔵造りをはじめとする歴史的建造物が多く残っています。川越市は、数多くの歴史的建造物を保存するため、これまで、歴史的建造物を公共施設として取得したり、寄附を受け、保存・再生を図ってきました。しかし財政負担が重くなってきたほか、営利活動へのノウハウがないことから、徐々に限界を感じてきたという経緯があります。

 一般的に、行政が歴史的建造物を取得する場合、財産区分の取り扱いと文化財保護の観点から歴史的建造物を行政財産として公開する施設として対応することが多く、積極的に再生・利活用することが難しいという問題があります。また、個人の町家は対象になりにくく、取り壊されてしまう事態も生じています。

 さらに、歴史的建造物を所有する方(所有者)の高齢化や後継者不足、維持管理に係る費用負担や相続などの問題のほか、歴史的建造物の再生・利活用に対する情報の不足、建物の安全性への不安感等も取り壊しや建て替えを後押ししています。

 川越市は、民間所有の歴史的建造物に対し、補助金交付や公共施設として取得・寄付などで保存・活用を図ってきましたが、所有者や行政の資金面、技術面での負担等の観点から、同様のケースを継続していくには限界があるとの見方を示していました。

 そこで川越市は、歴史的建造物を公共施設として取得・寄付されるだけでなく、新しい形で歴史的建造物を保存・活用する可能性を検討してきました。具体的には、所有者と活用主体の橋渡しとなる機能や仕組み(マッチング)の構築や、民間による保存・活用の促進が議題とされました。また、市民、地元企業、地域金融機関、公的機関等による民間主導の資金調達方法も検討され、歴史的建造物の構造上、防火上の性能等を充足する独自の制度の導入も検討されました。市内の歴史的建造物をワーキングスペースなどビジネス用途に使うための実証実験は、こうした検討の結果、はじめられたものです。

 以前のブログ「歴史的建造物「堀ビル」のシェアオフィス化をビジネスとして考える」https://workon.biz/blog/post-639/
でもご紹介したように、歴史的建造物をレンタルオフィス、シェアオフィス、バーチャルオフィス、カプセルオフィス、サテライトオフィス、ワーキングスペースなどに活用する事例が表れています。川越市の試みもこうした動きに沿ったものと言えます。

 自宅、オフィスを使い分ける働き方が増えると同時に、自宅でもなくオフィスでもない場所で働く、という新しい選択肢は、在宅勤務の普及とともに一般的なものになりつつあるように思えます。川越市の実証実験を経て、歴史的建造物をワーキングスペースとして利活用する動きや考え方が広く普及することも期待できそうです。

 新しいワークスペースWorkOnは、新橋駅前店に次ぐ2号店のオープンに向けて少しずつ動いていますが、2号店にとどまらず、3号店、4号店、5号店・・・と増やしていきたいと考えています。その一環として、WorkOnが歴史的建造物の利活用策として、自治体とコラボレーションすることもありうるでしょう。

 従来型のワークスペースでもなければ、レンタルオフィス、シェアオフィス、バーチャルオフィス、カプセルオフィス、サテライトオフィス、ワーキングスペースでもない新しい働く場所として、WorkOnは、いろいろな試みにチャレンジしていきたいと考えています。


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