新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、マスクなど衛生関連用品がいっきに品不足となり、使い捨てマスクの価格は一時、1枚100円を超えました。今では、1枚40円程度まで下がりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大前に比べれば、まだまだ高い水準にあります。
政府は2020年5月25日に緊急事態宣言を解除しましたが、在宅勤務など外出を控える動きは残っており、自宅で食事をする(自炊する)傾向は強いままです。このためか、パスタなど小麦製品や、レトルトカレーや缶詰など調理食品の物価も上がっています。総務省が発表した2020年5月の全国消費者物価指数(CPI)をみると、生鮮食品を除く総合指数を構成する523品目のうち401品目で物価が上昇しました。
https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf
日本銀行が発表した2020年6月の「生活意識に関するアンケート調査」では、1年後の物価が「上がる」と予想する回答は全体の66.7%、5年後も「上がる」と予想する回答が75.3%あったそうです。日々の生活で物価が上がっているのを目にしていることから、今後も物価は上がると考えたくなるのかもしれません。
https://www.boj.or.jp/research/o_survey/data/ishiki2007.pdf
新型コロナウイルスの感染拡大に対し、抜本的な解決策が見つかっていない以上、経済活動が以前と同じ状態になることは期待しにくいと言えます。経済活動が大きく変わる中、企業や人々が迅速に対応することは難しく、売り上げが減り、会社に勤める方の多くはボーナスを中心に賃金が下がることは覚悟したほうがよさそうです。そして時間とともに企業は、人件費削減の動きを強め、職を失う方も次第に増えると思われます。いわゆる不況です。
不況になる一方で物価の上昇が続くと、生活はかなり苦しくなります。ただ、これから不況色が強まるのであれば、いま目の前で起きている物価上昇は続かないと考えていいと思われます。
いま目の前で起きている物価上昇の多くは、新型コロナウイルスの感染拡大による需要の高まりによるものです。マスクや消毒剤といった衛生関連用品の価格上昇は、その典型例と言えますし、自炊によってスーパーで売っている調理食品の価格が上昇したのも同じ図式です。
ただ、不況が続けば続くほど、たとえ需要が高まったとしても、消費を手控える動きは広がります。たとえばマスクであれば、1日1枚ではなく数日で1枚使うといった工夫をすることで、マスクの購入量を減らすことが可能になります。もしくは、使い捨てマスクを布製など繰り返し使えるマスクに切り替えて、1日あたりのマスク費用負担を軽くする動きも広がるでしょう。
調理食品などの食材でも同じです。自炊は増えたのでしょうが、人々の食事の回数が1日3食から4食、5食と増えたわけではありません。自炊が増えたのであれば、外食は減っているといえ、日本で消費される食材量全体が増えたわけではありません。これまで外食で使われた食材が自炊用に切り替わることで、自炊用の食材供給が増え、結果的に物価上昇が抑えられることも十分ありえます。
また賃金が減ったり失業する例が増えれば、食費を抑える動きも強まるでしょう。自炊が増えたからと、スーパーなど小売店が強気の価格設定をしても、消費者が安売り店に流れてしまう恐れが高まるため、小売店は価格引き上げを躊躇すると予想されます。
不況とともに物価が上がりにくくなり、不況色が強まれば物価が下落することもあり得る話です。いわゆるデフレ経済です。政府や日本銀行は長年、デフレ脱却を標榜し、財政政策や金融政策を通じて景気拡大を目指してきました。ただ、これから私たちが目にするのは、デフレへの逆戻りと思われます。